知られざる実務補習という名の最終選別

中小企業診断士2次の筆記試験を突破し、さらに口述試験も通過したとしても、まだ、最後の選別である実務補習が残っています。

「えっ、試験じゃないでしょ。落ちないんじゃないの?」

はい、落ちません。でも、結果的に実務補習も選別になってしまうんです。不思議ですよね。一般にはあまり触れられることのない「実務補習による選別」、今回は、これがどういうことかについて見ていきたいと思います。

2次試験後に必要となる実務

中小企業診断士資格の登録を行うためには、実務補習または実務従事が必要なのは、ご存知かと思います。

中小企業診断士資格の登録までの流れの図

所属している会社や機関の仕事として、以下の要件を満たした実務従事を行うことが可能な場合は、実務従事を15日(1日の時間の制限はなし)以上行うことで登録できます。

  • 中小企業に出向き、直接、経営者等に経営診断・助言を行った
  • 経営診断の対価の有無は問わない
  • 窓口相談業務については、合計5時間以上を1日分としてカウントする

中小企業庁「中小企業診断士制度のQ&A集」によると、以下の例が挙げられています。

金融機関等に勤務する登録診断士が行う融資先中小企業に対する経営改善のためのアドバイス等の経営診断や、製造業に勤務する登録診断士が下請企業等の工程管理の改善等の指導を行う場合

さらに、対象にならない例として、以下のように記載されています。対象業務がかなり限定的であるため、実務従事に携われる仕事に就いている人は、相当限られていると思われます。

単なる調査・分析、セミナー講師、執筆活動は実務要件の対象とはなりません

そして、以上の条件を満たすことのできない人、つまり実務従事となる仕事に就いていない人は、実務補習を受講することになります。

実務補習が必要な人の人数は?

中小企業診断協会の公表する「平成28年度中小企業診断士2次試験の統計データ」によると、合格者の所属組織種類別の人数は、以下の表のようになっています。

業種別2次試験合格者の表

この組織群を組織名称から業務を想定して、以下3種類に分類し、色分けしてみました。
※ あくまで仮定としての見積もりなので、正確ではないかも知れません。

  • 実務従事可能組織 :構成員は実務従事を行うことが可能である組織
  • 実務従事半可能組織:構成員の半数程度が、実務従事を行うことが可能である組織
  • 実務従事不可能組織:構成員が実務従事を行うことができない組織

そしてこれを基に、「実務従事半可能組織」の半数を実務従事可能者として集計すると、実務従事ができる人数は全体の2割もいないと推測でき、約700人が実務補習が必要となる人たちであることが分かります。

実務従事可能組織の合格者数・実務補習必要組織の合格者数の表

実務補習の受講定員

次にこの実務補習は、いつ、どれだけ行われるかを見ていきます。

まず開催の日程としては、年に2回で、2月と7・8・9月にそれぞれ行われますが、「平成29年2月実施 中小企業診断士実務補習のご案内」「平成28年7月・8月・9月実施 中小企業診断士実務補習のご案内」によると、それぞれの日程で、地域別に定員が設定されていることが分かります。定員が未設定の地域では、企業や指導員の都合によって受講できない場合があるということで、受講の枠は保証されていませんので、それは除き、設定されている定員数の合計を算出してみると、以下のように受講枠があることが分かります。

1年で実務補習15日という要件を満たすためには、以下の2通りの方法があります。

  • 2月に15日コースを受講する
  • 2月・7月・8月・9月の4回の5日コースのうち、3回を受講する

15日コースは1回受講すればOKですので、その全数を「定員」としてカウントします。一方、5日コースの方は、枠が最大である2月の受講者全員が、残り3回のうち2回を受講できたと仮定して、2月受講者数を「5日コースのみで登録できる定員」としてカウントします。そして、その合計を「2016年度試験合格者のうち、2017年度に登録できる定員」として、合格者数と比べてみます。

合格者のうち、実務補習を必要とする「実務従事不可能者」と比べてみると、実務補習の定員の方が少ないため、枠の設定として全員が受講できるわけではないことが分かります。

なお、この数値には3年間、毎年5日コースを受講して登録する人が含まれていません。その分を考慮するとして、仮に、3年かけて登録する枠を定員42人(※)としても、「実務従事不可能者」数よりまだ約80人も少ない計算です。
※ 2月の5日コース受講者355人が、7~9月に2回ずつ受講する仮定のため、この期間の835人枠のうち、710人分が使用される。残り125人枠を、3年かけて受講する層が分け合うので1年あたりの修了者はその3分の1で41.6人≒42人。

期限内に実務を積むことができるか?という選別

上述の中小企業診断士実務補習の案内資料には、以下の記載があるように、3年以内に実務補習か実務従事を15日完了しないと、資格の登録ができません。

中小企業診断士 第2次試験合格者の方は、合格後3年以内に、実務補習を 15 日以上受けるか、実務に 15 日以上従事することにより、中小企業診断士としての登録の申請を行うことができます

実務補習を受講するためには、2月実施分であれば、12月下旬~1月上旬までに申し込む必要がありますが、期間中に定員が埋まってしまう可能性も考えると、「いかに早期に2月の予定について勤務先と調整をつけられるか」という勝負となります。

実務補習は15日コースであれば6日間、5日コースであれば2日間が平日にあたるので、その休暇の取得が必要なだけでなく、期間中は夜間業務を相当減らせないとこなせません。

それらの障害を乗り越えて、3年以内に15日以上の実務補習を完了できないと、登録できずに2次試験の合格が失効してしまいます。

なお、実務補習の定員枠が合格者数より少ないのは、2016年度に限った話ではなく、毎年のことであるため、試験に合格しても登録できずに失効してしまう合格生は、一定程度発生し続けているものと思われます。

まとめ

2次試験に合格しても、実務経験の要件を満たせないと資格登録ができません。

一般の受験生にとって、その要件を満たす主な手段となる実務補習は、意外と定員が多くないため枠の奪い合いとなりますが、3年以内に要件を満たせないと、2次試験の合格は失効してしまいます。

実務補習は、「いかに先の予定を確保できるか」という調整力、あるいは「調整できなければ退職してでも確保する」という覚悟が問われる最終選別なのです。



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