中小企業診断士 養成課程の選び方

中小企業診断士の資格登録までの流れの図

中小企業診断士資格の取得には、2次試験の合格の他にもう一つ方法があります。それは、「養成課程」という実践を重視した教育を行う訓練校を修了することです。今回は、その教育機関をどう選んだらよいのか、について見ていきたいと思います。

養成課程とは

まず、中小企業診断士の資格取得に至る道筋として、中小企業診断協会のサイトでは、以下のような流れが定義されています。

「国会試験と同等以上の能力を有する者を養成する」ことを目的として、演習・実習を中心とした実務能力付与型のカリキュラムのコースが設置されており、そのコースを修了者することによって中小企業診断士資格を取得する方法があります。

この養成課程を提供する教育機関は、中小企業基盤整備機構の中小企業大学校の他に、基準を満たした民間の教育機関が登録されています。厳密には、中小企業大学校のコースを「養成課程」、民間教育機関のコースを「登録養成課程」と言うのが正しいですが、本サイトでは便宜上まとめて「養成課程」と呼びたいと思います。

そして、この「養成課程」では、ケーススタディを中心とした演習と、実務補習と同様に実際に企業に対してグループで診断・助言を行う実習に対して、以下のようにカリキュラム上、必須とする時間基準を設けています。

  • 経営診断Ⅰ:演習246時間以上、実習120時間以上(2企業以上)
  • 経営診断Ⅱ:演習  84時間以上、実習192時間以上(3企業以上)

実務補習では、5日間で1企業なので営業時間換算で40時間、それを3回やるので、120時間で3企業の実習となりますが、養成課程では2企業の診断を行う経営診断Ⅰの実習での拘束時間だけでそれと同等となります。時間基準で実務補習の2.5倍の場数を踏むことができ、さらに大量のケーススタディも加わるので、実践力も身に付くでしょう。

養成課程コースの種類

中小企業庁の発表している「養成課程・登録養成課程の実施機関一覧」と2017年1月26日時点の各機関の募集要項の情報をまとめてみました(2018年4月26日に3機関を追加)。以下12機関が、都心・関西・名古屋を中心に開催しており、1年に約430名の中小企業診断士を輩出しています。

期間 開講日(時間) 場所(最寄駅) 費用 定員
中小企業大学校 半年 平日(終日) 東京 東大和市(東大和) 2,300千円 春:48名
秋:80名
法政大学大学院 1年 平日(終日)
土曜(終日)
東京 千代田区(市ヶ谷) 2,590千円 35名
中京大学大学院 2年 平日(夜間)
土曜(終日)
愛知 名古屋市(八事) 募集停止
(社)日本生産性本部 半年 平日(終日) 東京 渋谷区(渋谷) 2,592千円 春:48名
秋:48名
(株)日本マンパワー 1年 火・木曜(夜間)
土曜(終日)
東京 千代田区(神田) 2,500千円 24名
名古屋商科大学大学院 2年 土・日曜(終日) 愛知 名古屋市(丸の内)
東京 千代田区(東京)
大阪 北区(梅田)
3,600千円 東京大阪
20名
名古屋
10名
(社)中部産業連盟 1年 火・木曜(夜間)
土曜(終日)
愛知 名古屋市(清水) 2,100千円 24名
東海学園大学大学院 2年 平日(夜間)
土曜(終日)
愛知 みよし市(三好) 1,500千円 8名
東洋大学大学院 2年 木曜など(夜間)
土・日曜(終日)
東京 文京区(白山) 2,570千円 16名
千葉商科大学大学院 2年 土・日曜(終日) 千葉 市川市(国府台) 2,480千円 21名
兵庫県立大学大学院 2年 土曜(終日)
+他
兵庫 神戸市(学園都市) 1,834千円 16名
城西国際大学大学院 2年 水曜など(夜間)
土・日曜(終日)
東京 千代田区(麹町) 1,780千円 16名
福岡県診断士協会 1年 火・木曜(夜間)
土曜(終日)
福岡 博多市(博多) 2,200千円 12名
札幌商工会議所 半年 平日(終日) 北海道 札幌市(大通) 1,998千円 24名
日本工業大学大学院 1年 火・金曜(夜間)
土曜(終日)
東京 千代田区(神保町) 2,000千円 15名

コースは大きく分けて、半年~1年で修了する全日制、平日夜間+土・日を中心とした1~2年制、の2パターンとなります。ただし、夜間+土・日の方でも、実習の場合は、訪問先企業の都合もありますから、平日に休みを取る必要が出てくることは注意が必要です。

全日制の場合は、受講期間中の収入がなくなるので、予算としては生活費も含めて考える必要があります。

なお、中小企業大学校および札幌商工会議所の費用については、上記は一般の場合の金額です。指定された公的機関や中小企業支援機関の場合は、中小企業大学校は約半額の1,180千円に、札幌商工会議所は1,458千円になります。

*2017/9/5:東洋大学大学院の開校曜日の誤りを修正
*2018/1/24:名古屋商科大学大学院の定員を「企業診断 2017年10月号」に基づいて更新
*2018/4/26:福岡県中小企業診断士協会、札幌商工会議所、日本工業大学大学院を追加

養成課程コースの選考方法・特色

続いて、各コースの入学選考と特色についてまとめてみます。

選考方法 特徴
中小企業大学校 志望動機書審査
面接審査
寮あり(入寮任意)
法政大学大学院 研究計画書審査
面接審査
MBA同時取得
教育訓練給付金制度対象
中京大学大学院
(社)日本生産性本部 志望動機書審査
面接審査
上位50%は認定コンサルタント資格取得
(株)日本マンパワー 筆記試験
面接審査(個人、GD)
教育訓練給付金制度対象
名古屋商科大学大学院 エッセイ審査
小論文試験
面接審査
国際認証MBA同時取得
教育訓練給付金制度対象
名古屋は3月、東京・大阪は9月に開講
(社)中部産業連盟 書類審査
筆記試験
面接審査
東海学園大学大学院 書類審査
面接審査
MBA同時取得
教育訓練給付金制度対象
東洋大学大学院 面接審査(個人、GD) MBA同時取得
教育訓練給付金制度対象
千葉商科大学大学院 書類審査
面接審査(個人、GD)
MBA同時取得
教育訓練給付金制度対象
兵庫県立大学大学院 小論文試験
面接審査
MBA同時取得
教育訓練給付金制度対象
城西国際大学大学院 書類審査
面接審査(個人、GD)
MBA同時取得
ITコーディネータ資格取得可
教育訓練給付金制度対象
福岡県診断士協会 書類審査
面接審査
札幌商工会議所 書類審査
面接審査
終了後のフォローアップ体制
日本工業大学 書類審査
面接審査
技術経営修士同時取得
終了後も5科目無料受講可能
教育訓練給付金制度対象

(GD:グループディスカッション)

どの機関も、それなりの選考がありますので、簡単には入学できません。2015年度実績で東洋大学大学院は倍率2.5倍であったと聞きましたし、他の機関でも最近は倍率は上がってきているそうです。「データで見る中小企業診断士2次試験」の記事に、2次試験での定数合格に漏れた受験生が滞留して競争の激化が続いていることを書きましたが、その余波がここにも影響してきているということなのでしょうね。

次に特徴について見てみます。まず、大学院の場合は、MBA同時取得が可能です。教育訓練給付金制度の対象にもなっているので、制度の条件に合えば、32~48万円ほど学費の補助になります。また、奨学金も募集しているので、認められれば、さらに金銭的な補助が得られます。

他では、生産性本部の認定コンサルタント資格が特徴的ですね。これは、日本生産性本部独自の認定資格で、メリットはよく分かりませんが、生産性本部の仕事をする場合に有利になったり、生産性本部をよく知る顧客の仕事を頂く場合に安心してもらえたり、などするのではないかと推測しています。

養成課程コースの受講生の傾向

次に、コースのパターンを以下3つに分けて、私が聞いた話や書籍「中小企業診断士[登録養成課程]解体新書」で読んだ内容、さらに、J-Net21「中小企業診断士の広場」の「さまざまな中小企業診断士登録養成機関の実態に迫る 第1回第2回-1第2回-2第3回-1第3回-2」の情報などを基に、受講生の傾向を見てみます。

  • 全日制-半年コース:中小企業大学校、生産性本部、札幌商工会議所
  • 全日制- 1年コース:法政大学大学院
  • 夜間+土日制コース:その他

まず、「全日制-半年コース」では、企業派遣が多いそうです。中小企業支援機関や金融機関などからの受講生が多数を占め、コースが終わったら所属機関に帰っていくため、独立する人の割合は低めになります。年代としては、20代~30代中心の企業派遣受講生と、リタイアした50~60代の受講生が目立つようです。

次に、「全日制- 1年コース」で、ここは法政大学大学院のみが該当します。1年とやや長いため企業派遣は少なく、全日制なので働きながらの受講は不可能であるため、既に独立した人または修了後独立する人が70%を占めるという、特殊な環境になっています。学費は高く、さらに1年の生活費も必要になるので、貯蓄の少ない若い層は少ないと思われますが、平均年齢は30代中盤~後半と、相対的に低めです。

そして「夜間+土日制コース」ですが、こちらは当然、働きながら受講する人が圧倒的多数を占めます。その結果として修了後、すぐ独立する割合は低めになります。企業の役職者などもよく見られるそうで、企業内診断士を多く輩出する傾向が強いと言えるでしょう。

養成課程コースの選び方

まずいつならば通えるのか(全日制か夜間+土日か)で、大体方向性が見えてくると思います。そして、どの程度の期間通えるのか、どこならば通えるのか、…と考えれば、もうあまり選択肢は残らないと思います(笑)。

残った選択肢の中で迷うなら、ホームページを見たり説明会に行ったりして雰囲気をつかんでみてください。そうすれば、おのずと志望順位が決まってくると思います。後は「中小企業診断士[登録養成課程]解体新書」で体験談を読むのもいいかも知れません。

養成課程コースの申込時期

申込時期などは、機関によって異なりますが、秋ぐらいから始まり、一つの機関で数回にわたって募集を行うことが多いです。そして、2次試験の結果が出るよりも前に選考と入学手続きを終えるスケジュールの方が、枠が多い中での選考になるため合格しやすいと言われています。しかし、私が選考する立場であれば「まだ数回募集するのだから、あえて基準を緩める必要はない」と考えるので、実際に合格しやすいかどうかは分かりません。

いずれにしても、情報収集だけは2次試験よりも前から始めるようにしましょう。


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