関連資格は必要か?「簿記」編

関連資格としてよくオススメされている資格「日商簿記」。範囲に共通性があって、学習に相乗効果が得られて、資格まで取れてしまう、と言われています。「簿記2級まで取ってから中小企業診断士の財務・会計の勉強をしたので理解しやすかった」とか書かれているのを目にすることも多いです。

でも、思いませんか?「本当に取った方がいいのだろうか」と。

そこで今回は、簿記1級までの学習経験を持つ者ならではの、他では触れられない新しい視点も交えながら、「中小企業診断士を目指している中での、簿記という資格」をどう考えるべきかについて見ていきたいと思います。

中小企業診断士試験で求められる能力

まず、前提として中小企業診断士試験の合格が最優先の目標だとします(そうですよね?)。そうだとすると、真っ先に考えるべきは、ゴールである「中小企業診断士試験の財務・会計分野でどのような能力が求められているか」ということになります。

では、それは何か。ざっと挙げると、以下のような能力だと私は考えています。

  • 簿記一巡の手続きとその概要が把握できている(1次)
  • 会計処理の主要な論点を理解しており、処理方法が分かり、簡単な計算もできる(1次)
  • 財務的な数値を使って経営指標算出ができ、経営行動と合わせた分析ができる(2次)
  • 経営における意思決定を行う上で必要な計算ができる(2次)

あくまでも、中小企業へのコンサルティングを行う上で、最低限必要な能力までしか求められません。まぁ、当然ですよね。それが目的の試験なのですから。

簿記試験との違い

一方、簿記の試験はというと、こちらは基本的に経理処理を行う担当者向けの試験です。経理部員や、経理部と関係の深い情報システム部、システムインテグレーターのSE、ITコンサルティング会社のコンサルタントなどが受けることが多いです。

試験の内容としては、中小企業診断士試験で求められるよりも知識を前提としつつ、実務としての仕訳処理能力、計算能力が求められる内容となっています。3級は商業簿記のみ、2級では工業簿記や専門的な会計処理も加わってきて、1級ではより高度な会計処理が加わって処理手続きも複雑化します。

範囲としては、中小企業診断士試験で求められる知識は1級に含まれるものも多く、2級では足りません。さらに、特に2次の意思決定会計分野では1級でも見ない論点も出題されているので、知識範囲として非常に広いです。しかしながら、問題の設定が複雑になっていて計算処理が難しく専門的になっていて、圧倒的に簿記試験の方が高くなっています。

はっきり言って、試験での点数の取り方も違えば、勉強の仕方も違ってくるので、言われているほどの相乗効果はないのではないかと思います。

図に示すと以下のようなイメージです。

中小企業診断士試験と簿記1級・2級・3級の範囲の関係性図

「浅いながらも広範な知識と、簡易な処理能力」を求められるのが中小企業診断士試験、「会計処理方法の理解と、計算手続きの完遂能力という専門性」を求められるのが簿記試験です。

簿記資格の世間的評価

日本商工会議所の簿記試験のサイトには、各級のレベルについて、以下のように定義が書かれています。

3級

ビジネスパーソンに必須の基礎知識。経理・財務担当以外でも、職種にかかわらず評価する企業が多い。
基本的な商業簿記を修得し、経理関連書類の適切な処理や青色申告書類の作成など、初歩的な実務がある程度できる。
中小企業や個人商店の経理事務に役立つ。

2級

経営管理に役立つ知識として、最も企業に求められる資格の一つ。企業の財務担当者に必須。
高度な商業簿記・工業簿記(初歩的な原価計算を含む)を修得し、財務諸表の数字から経営内容を把握できる。
高校(商業高校)において修得を期待するレベル。

2級は、経理の事務の求人などでよく求められており「そこそこ専門的」なレベルとされていますが、結局のところ「高校レベル」なんです。

簿記2級を持っていても、財務・会計分野の強さをアピールするどころか、「高校レベル」であることをアピールすることにしかならない。もし知らなかったら…、恐ろしいですね(笑)。

1級

公認会計士、税理士などの国家資格への登竜門。合格すると税理士試験の受験資格が得られる。(中略)
大学等で専門に学ぶ者に期待するレベル。

中小企業診断士として、独立したとすると、公認会計士や税理士は、経営者の相談先として競合になります。簿記1級を取ったとしても、彼らと比較すると「所詮、受験資格を得ただけ」の存在となります。あなたが経営者だったら、そんな相手に相談したいと思いますか?

まして、それ未満の「高校レベル」である2級、「素人向け」の3級、です。

過去に私が簿記2級を取ったのは、経理部を顧客とした会計システムを扱っていたSEのころ、システムのプロでありながらも、業務もある程度分かっていることを顧客に示すのが目的でした。それでも、「1級はいつ取るんですか?」と言われたりしていました。「2級では全く十分ではない」という意味で受け取っていましたし、1級も学習してそれがよく分かりました。

私は、自社のホームページのプロフィール欄では、簿記2級については触れてはいません。「その程度」であると示したくないからです。このサイトでは、簿記試験にも興味を持つ中小企業診断士受験生が多いため、あえて記載していますが、実際のところは、専門家というにはレベルの低い、人に名乗れるような資格ではないと思っています。

中小企業診断士受験生は簿記試験をどう考えるべきか

以上の理由で、受験する必要はまったくありません。上の級に行けば行くほど学習のアプローチが違うので、中小企業診断士受験の目的に沿わない勉強に時間を費やすだけです。

そして仮に受験して合格しても、手にするのは、とても専門家とは名乗れない資格です。2級だと経理のアルバイトに採用されやすくなるとは思いますが、そもそもそんなことは目的じゃないですよね?

なので、あくまでも中小企業診断士受験に役立つ、あるいは独立後に役立つ、その範囲で簿記試験を活用するべきです。例えば、これまで財務・会計分野に経験がなく、中小企業診断士試験対策の教材だけだと分かりにくいと感じる人が、簿記3級の教材を使ってまず一通り理解する、などです。

さすがに簿記3級の教材は、素人向けになっているので、親切な書き方で分かりやすいものが多いです。そういった教材をうまく活用をして一通り理解し、そして中小企業診断士試験対策の教材に戻ってくるのはよいと思います。ただし、受験は必要ありません。取っても、名乗れないですし役に立たないのですから、受験料と交通費、そして簿記試験にしか通用しないスキル習得の時間の無駄です。「基礎をざっと理解する」という目的を達成したら、簿記対策本はもうお役御免です。本棚に片づけてしまいましょう。

そうしたら、後は中小企業診断士試験対策に注力するだけです。他の試験の対策は、他の試験にしか活きません。中小企業診断士試験は、中小企業診断士試験対策教材が一番なので、余計なことに手は出さず、中小企業診断士試験に集中しましょう。「2次試験は、より高度になるから」と不安になるかも知れませんが、むしろ2次試験の方が、簿記試験向けの勉強は不要です。2次試験と簿記試験はまったく方向性の違った試験になっているため、簿記試験は対策になりませんし、私の経験上でも簿記試験対策をやらなければ難しかったと感じたものはありません。

まとめ

中小企業診断士試験と簿記試験は、求められる能力が異なり、対策も異なります。さらに合格して資格を取得しても、大したステータスは得られません。

従って、活用するにしても「分かりにくい部分を、簿記試験対策の教材を使って理解する」程度で、受験はしない、そのくらい割り切った活用の仕方がベストだと思います。

あとは、独立後に個人事業主として確定申告するための経理処理の勉強のため、独立前に簿記3級を復習する、それで十分でしょう。どうせいくら勉強しても、実際に処理するときには、費目や計上タイミングなどで悩むことになるのですから。



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