「2次試験で求められる能力とは何か?(3/4)」の記事の続編です。前回は、養成課程のカリキュラムが2次試験で求められる能力と明確な対応関係を持っていることを踏まえて、2次試験の各事例で問われる設問のうち、経営戦略関連の設問について、どのような考え方で設計されているのかを明らかにしました。今回は、各事例固有領域の設問について、分析していきます。
今回も、前記事から引き続き、中小企業庁の「登録養成課程を実施するためのカリキュラム等の標準モデル」の第1章「Ⅰ.標準カリキュラム」の基に、見ていきます。
事例Ⅰと「人材マネジメント」科目の関係
まず、「人材マネジメント」から見ていきたいと思います。
(中小企業庁「登録養成課程を実施するためのカリキュラム等の標準モデル」を基に作成)
この科目は、2単元構成になっていて、両方に重なる範囲もあるものの、大体の流れとして、第1単元で課題分析を行い、第2単元でそれに対する解決施策を作るようになっています。
前の記事にも書きましたが、事例Ⅰは、以下のように設問が設定されるのが基本パターンで、
- 最初の設問で、事例企業の過去の成長や情勢などを踏まえた外部/内部の分析が問われる
- 前半の設問で、今後の事業展開と、それを実行する際の留意点などが問われる
- 後半の設問で、現状の組織・人事制度の背景や今後の事業展開に向けた課題が問われる
- 最後の設問で、今後の事業展開を実行していくために必要な人事・組織制度が問われる
1.と2.は経営戦略の設問として既に問われているので、残りの3.と4.が組織・人事の設問となるのですが…、どうでしょう? お分かり頂けますでしょうか。
見事に「第1単元:課題分析」「第2単元:解決施策」が、ちょうど3.と4.の設問にそれぞれ当てはまる!というのが見て取れるかと思います。
事例Ⅱと「マーケティング」「店舗マネジメント」科目の関係
次に、「マーケティング・営業マネジメント」と「店舗施設マネジメント」を見ていきます。
マーケティング・営業マネジメント
(中小企業庁「登録養成課程を実施するためのカリキュラム等の標準モデル」を基に作成)
店舗施設マネジメント
(中小企業庁「登録養成課程を実施するためのカリキュラム等の標準モデル」を基に作成)
事例Ⅱでは、設問で問われる内容は、事例企業の形態や置かれた状況によって異なるものの、「経営戦略」を受けて「マーケティング戦略」を考え、「ターゲット」顧客や競合に差別化するための「ポジショニング」を決め、「マーケティングミックス」とその具体的な施策を立案していく、という流れは変わりません。
「マーケティングミックス」の中で問われるのが、「マーチャンダイジング」なのか「ロジスティクス」なのか「製品開発」なのか「営業マネジメント」なのか、という違いがあったり、具体的な「店舗構成」や「店舗設備」が問われたり、というパターンの違いはありますが、試験で求められる基本的な思考プロセスは、カリキュラムで示されている流れと共通していることが、上の図を見るとよく分かるかと思います。
事例Ⅲと「生産マネジメント」科目の関係
では続いて、「生産マネジメント」科目を見ていきます。
(中小企業庁「登録養成課程を実施するためのカリキュラム等の標準モデル」を基に作成)
この科目は、養成課程では診断実習と合わせて行われるため、「製造診断実習」が各単元を束ねている構図になっていますが、第1単元の知識を使って第2単元で分析を行い、それを基に、「生産戦略」「製造システムの改善」「管理システムの改善」へ対応していく、という流れになっています。
それに対して試験の方では、事例Ⅲの設問は、以下のようなパターンが多いですが、まず経営戦略の設問として1.は問われているので、残りの2.と3.と4.が生産マネジメント分野となるわけですが、
- 最初の設問で、事例企業の強みと弱みが問われる
- 前半の設問で、最大の弱みに対する解決策などが問われる
- 後半の設問で、今後の成長に向けた課題などが問われる
- 最後の設問で、今後の事業の方向性や、それに必要な対応策・情報活用などが問われる
「IE手法」「製造システム」「管理システム」の知識を使って改善策・課題を見つけて対策を立て、今後の「生産戦略」とその具体策を立てる、という流れが、2.~4.に該当しているのがお分かり頂けるかと思います。
事例Ⅳと「財務・会計」科目の関係
そして最後に、「財務・会計」科目を見ていきます。
(中小企業庁「登録養成課程を実施するためのカリキュラム等の標準モデル」を基に作成)
これは、知っている人なら「あっ、これ!!」と思うはずです。そう、事例Ⅳの出題パターンそのまんまです。年度によって出題される設問は異なるものの、事例Ⅳでは大体以下のような流れで設問が設定されることが多いです。
- 最初の設問で、経営分析が問われる
- 前半の設問で、CF計算書の作成や予測損益計算書などが問われる
- 後半の設問で、損益分岐点分析や限界利益・貢献利益分析などが問われる
- 最後の設問で、投資の意思決定やリスク管理などが問われる
流れを意識せずとも、個別に解けてしまうので、気にしていない人が多いかも知れませんが、事例Ⅳの設問の流れは、実務における財務戦略の流れであった、ということが分かりますね。頻出論点が、なぜよく出題されているのか、という理由も、これを見れば一目瞭然!です。
まとめ
4つの記事にわたって、2次試験と養成課程のカリキュラムを比較してきました。
相互の共通点から、逆に「なぜ2次試験はあのような形式になっているのか」「なぜ2次試験の設問にはあのような問題が設定されているのか」が納得できたのではないでしょうか。
2次試験を突破するためには「出題者の意図を外さないこと」が、合格の第一歩となります。全体に流れる思想を知ることは、大きく外すことを避けることにつながると思いますので、 ここに取り上げた各科目の構成を意識しながら勉強することは、きっと役に立つでしょう。