ビジネスマン向けの情報収集手段としても有名な、テレビ東京系で毎週月~金曜日の23時から放送しているテレビ番組「ワールドビジネスサテライト」があります。
この中で、中小企業診断士2次試験に役に立つような事例が取り上げられることがあります。
今回は、2017年1月24日放送の「ワールドビジネスサテライト」の「ロングセラー研究所」というコーナーで取り上げられた「たらみ」の事例を基に、中小企業診断士2次試験のセオリーについて、見ていきたいと思います。
※ 動画は「【ロングセラー研究所】たらみのフルーツゼリー」でご覧ください。
株式会社 たらみ
放送ナレーションは、以下のように説明します。
(冒頭略)
果物の特徴を活かした商品づくり。それは、「たらみ」だからこそできたのだと言う。実は「たらみ」は、1966年、長崎県・多良見町で青果卸として創業。だが、当時の創業者は、規格外の大きさや、傷がついたミカンが出荷できないことに、歯がゆさを感じていた。
「美味しさは変わらないのに、もったいない。何か、方法はないのか…?」
出荷できない果物を使って、ジャムやジュースなど、加工食品の商品化を模索する中、出会ったのが、ゼリーだった。
マーケティング部長「常温で、いつでもどこでも、安心・安全・安定して食べられる」
当時、小さな菓子店などでしか作られていなかった、フルーツ入りのゼリー。その大量生産に初めて挑み、ついに「たらみ」のフルーツゼリーが、誕生する。ギフト用としても人気になり、売上は順調に伸びたが、2000年頃、他社の参入などで競争が激化。安売り路線へ向かった結果、売上が落ちた。そこで「たらみ」は、ある転換を図る。ゼロカロリーや、これまでの果汁のおよそ2倍の濃さという今までにない高付加価値のゼリーを開発。さらに、人気商品「くだもの屋さん」などの賞味期限を、180日から300日に延ばすことに成功。備蓄用という新たな需要を開拓し、近隣自治体に寄付する活動も行っている。ロングセラー商品としての地位を築いた極意とは?
マーケティング部長「ゼリーとして食べた方が、よりフルーツが美味しくなる。そういうことをコンセプトにして、時代に合ったお客様のニーズというものを捉えて、そういう風に進化させる」
テレビ東京 「ワールドビジネスサテライト」2017年1月24日放送より
割合としては事例Ⅱで出てくるようなポイントが多いですが、他の事例の要素を持ったものも含まれていますね。順に見ていきたいと思います。
まずは、何といっても「果物の特徴を活かした商品づくり」です。青果卸であった同社は、取り扱っている果物の味や特性、相性などをよく理解していました。だから、果物の味を最大限に活かすだけでなく、さらに強化までした商品を作ることができたのです。これは、他社が真似できない競争優位の源泉となる強みであり、この強みを活かせたことが成長につながったということが分かります。ここから読み取れるセオリーは、
- 新事業を開始する場合は、既存事業で培った強み・資源を活かせるビジネスを選ぶ
です。事例Ⅰ~Ⅲで共通の定番中の定番セオリーですね。
次に「世の中に現存しない事業を選んだこと」です。規格外・傷あり商品など、既存事業で活用できていなかった資源を有効活用した、という点も学ぶところはありますが、それ以上に、それまでは小さな菓子店以外は作っていなかったフルーツゼリーの大量生産に、他社に先駆けて参入し、いち早く競争優位の環境を築いたというのが重要です。
- 他社ができない・やっていない事業を、最初に開始して有利に進める
小さな菓子店は大量生産ができないので競争相手にはなりませんし、後から始める企業には、規格外・傷あり商品などをもともと抱えて困っている「たらみ」ほど安価に仕入れることは、そう簡単にはできなかったでしょう。仮に、安価に仕入れする力を持った企業が参入しようとしても、その頃には「たらみ」がそれまでの経験で得た生産性の高さに並ぶには、相当の時間がかかる状態になっていて、追いつかれるまでのしばらくの間は有利に進められるわけです。事業開始時に重要なセオリーの一つと言えるでしょう。
そして「高付加価値化の推進」です。他社の参入によって価格競争に陥り、売上が落ちたという失敗も経験していますが、その後は高付加価値商品を相次いで投入、価格以外の要素で差別化することで価格競争を避けることに成功しました。これも頻出の重要なセオリーです。
- 高付加価値商品・サービスによって差別化し、価格競争を避ける
さらに「新たな需要の創造」です。人気商品の賞味期限を延ばしたことによって、備蓄用という需要を創り出すことに成功しました。売上を上げる方法として、既存顧客の消費を増やすか、新規顧客を増やすか、がありますが、今までになかった需要を取り込んだという意味で、後者のセオリーに該当する例だと言えるでしょう。
- 売上の向上施策として、新たな需要を創り出す
最後に「企業イメージの向上によるブランド力の強化」です。備蓄用にもなる商品を、近隣自治体に寄付する活動を行うことを通じて社会へ貢献し、地域との結びつきを強めながら、企業イメージを向上させる、そしてそれが報道されることによって、自社自体のブランド力が強化される…。典型的なソーシャル・マーケティングですね。
- 地域に対して社会貢献活動を行うことによって、地域での自社のブランド力を高める
読み取れた中から、5つほどセオリーを取り上げましたが、どれも、本当に2次試験で良く出てくる重要なセオリーです。
成功している企業というのは、やはり機会を捉えながら強みを活かして、「正しい」戦略を取ってきているのだな、というのを実感しますね。